靴が支える快適歩行Vol.7
この講演は、シューフィッター補習講座(東京)2003年10月23日を収録したものです。

きちんとできていない靴職人の技術伝播

 多くの靴の生産拠点が海外に移転しています。昔はオンザジョブトレーニングで、製造のところにデザインの人も行って、シャンクとはどういうものなのかというのを職人さんから聞くことができたんです。けれども、現在はなかなかそういったことを聞けないままにデザインだけをしてしまう。そうすると、軽いのがいいんだよという誤情報が流れてしまったので、だれが見ても重そうな中底、シャンクは取っちやえということで、とんでもない靴ができ上がっちゃう。軽さが大事ではないということが、できればオンザジョブトレーニングで現地の工場に行ってわかればいいわけです。ただ、工場の大小の問題ではないんですけど、小さい工場で若手の人が上の職人さんから意味を聞いて、こうだからいいんだぞというのが伝わっていけば全くそういう問題はないんです。残念なことに、日本の靴づくりは終戦後に始まって、20歳で靴職人になった人は、もうとっくに定年なんですね。そこの技術伝播がきちんとできなかったのが日本の靴の大きな問題なのかなと思います。けれど、1個ずつでもいいからしっかり、従来の基本的な靴の構造を調べていくことをやっていくと同時に、そういう技術伝播を何らかの形でやっていかないと、いよいよただ安い、軽いという靴に押されてしまうのかなと思うんです。

 靴の選び方というのが余り確立していないので、はき方自体、いろいろな履き方があります。履き方というのは、例えば3日に一回履いて休ませるとか、休ませるときにはシューズにシューキーパーを入れて型くずれを防ぐとか、最も基本的なことを日本人はまず知りません。ですから、そういったレベルのことから教えていかなくてはいけないということがあります。

 それから問題なのは、コンビニエンスストアにちょっと買い物に行くのにもヒールで、プレーンなパンプスを履いていっちゃうというような状況があるんです。なぜかというと、基本的には玄関に上がりかまちがなくなったので、ひもを縛るというプロセスがすごく面倒なんですね。だから、そういう意味では上がりかまちがないというのはちょっと大変なので、バリアフリーじゃなくて逆にバリヤーをつくってほしいと思います。

履き分けのすすめと指定靴への警鐘

 「ワーキング・ガール」という映画だったと思いますけれども、靴の履きかえを映画のシーンでやったり、ネスカフェのコマーシャルで、地下鉄を歩いているときはスニーカーで、オフィスに行ったらヒールと。そういう履き分けをきちんとしていくことが、まず第一歩じゃないのかなと。それすらできないと、ただ単にヒールが悪いということではない。ヒールもヒールとして楽しんで、パンプスも楽しむことは大事な要素だと思っていますので、そういう意味では、この履き分けをきちんとしていくということも大事なのかなと思います。

 それで、モカシン、ローファーをつくっている方には非常に申しわけないんですが、モカシンは甲の押さえがスリッポンの中でも浅いつくりになっています。この甲の押さえが弱い靴をわざわざ初めて靴を履く子供に履かせている。しかも、まずいことにカウンターもしっかりしていない。高校生の多くは踵を踏んで歩くんです。もし指定靴にするのであれば、甲をきちんと押さえるようなスタイルにしなくてはいけない。ただ、それにもバリヤーがありまして、実は学校のげた箱はすのこなので、やっぱり履きやすいということでいえばスリッポンになってしまうという側面があります。

 中高一貫教育でやっている場合なんかには、結構遠くの距離を移動しなくてはいけないので、そうすると歩いている間にまた疲れちゃうということが出てきますから、ローファーは何とかして高校生に履かせるのは止めてもらいたいなと思います。駅の階段で、よく靴の踵の減りの強い人を、別にそういうのばかり探しているわけではないんですけれども、見ると大体高校生のローファーです。それは、皆さん既に感じていると恩うんですけれども、学校の指定にするのだけは止めてもらいたい。ファッションとして楽しむ分には全然問題ありません。

シューフィッターの能力が上がれば上がるほど店頭で売る靴がなくなる

 カウンターが非常にしっかりとした靴を履いて車を長時間運転していると、踵が痛くなります。ですからTPOという意味では、最近ドライビングシューズというのが出てきていますけれども、用途に応じて使い分けてもらえば、非常にシューズライフを楽しんでいただけると思います。

 それから、シューフィッターが一生懸命勉強して、より良い販売をということで努力をされているんですけれど、別にバイヤーがいて、最初の仕入れの段階で今いったような間違った靴が入ったら、店頭で売る場合には、もうそれは売るしかないんです。突っぱねることはできない。以前、西法正先生と「シューフィッターの能力がもっと上がってくれば店頭に売る靴がなくなる」というお話をしたんです。実際に僕なんかは男なのによく婦人靴のところへ行って試してみるんですね。店員さんから白い目で見られながらやっているんですけれども、2割くらいですね、満足に履けそうなのは。8割くらいはだめかなと思っています。

 それから、はやりものがどんどん出てきて、パテントの問題とかもなかなか取りにくい業界なので、規制がしにくいんですね。サイクルが速いということもありますが。ですから、業界全体としてマークを認定するとか、消費者がわかりやすい方法を確立していかないとだめかなと思いますけれども、規制緩和という流れからは逆行した内容になるのかなとも思います。

日本の靴文化の創造シュールネッサンス運動

 靴の話しを様々なところでするようになって最後にお話することに「シュールネッサンス運動」があります。僕が勝手にいっていることなので、別にどこに事務局があるということではないんですけど、日本の靴文化の創造。まず女性の方にいわれるのは、蒸れるということがすごくあるんですね。湿気がないヨーロッパからきた靴というものを日本で履くためのことを考えていかなくてはいけない。さっきいった手入れの問題だとか履き方ですね。そういったものを啓発しなくてはいけなということを考えているんですが、なにぶん微力なのでここに掲げるだけで終わっているんですけれども、ある意味こういった活動自体がその一貫かなと思います。

(終わり)


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