7)甲部の銀面荒れ
写真10 はブーツの甲部にたて縞が見えます。だんだんと目立ってきたと言うクレームです。これはクリッピングと言う甲部を成形するときに当然できるしわ跡です。
図1A のようなブーツ前面の甲革をB のように靴型に沿わせようと引っ張りますと、しわが寄ってしまいます。
図C のように矢印方向に伸ばして(点線の扇状に伸ばす)成形することで、革はきれいな独特な風合いを生かした成形が出来ます。合成甲材料はアイロン効果で容易に成形ができますが、成形後の独特の雰囲気に仕上がる革の良さはここでも実感できる筈です。
この甲部をくせ付けするために、機械で予め成形する方法がクリッピング加工です。甲革の中央部を押さえて広げて成形します。甲部の中央に残るラインはこの成形で押さえた跡だったのです。強く残れば革の風合いが損われて、革の雰囲気を壊してしまう危険な作業です。このことはまた、「銀が荒れる」と言い甲革の肌が荒れる意味もあり熟練を要する作業でもあります。
革靴の作りでは、スポーツ靴のデザインのように継ぎ合わせと重ね縫いで立体に成形するのでなく、革は広げる部分と縮める部分を作る加工で張りのあるしなやかな曲線を作り出しているわけです。
また、蛇足になりますがボール部分にあたる位置での成形曲線も技術を示すポイントです。カウンターや先芯で成形固定されている部分は変形が起きませんが、ボール部や甲部の成形は型崩れが起きやすく出来栄えを左右するポイントとなります。