靴のクレームの実例と品質性能値 靴甲材料に関わるクレーム その14 東京都皮革技術センター 台東支所 中島 健

●靴甲材料に関わるクレーム その14

8)先芯部分のしわ

写真11 つま先のしわ 写真12 つま先のつぶれ

 写真11、12 は爪先を踏んでしまった時のしわですが、本人はまったく身に覚えがないといわれます。芯には熱で熔かしたタイプや溶剤で軟化させたプラスチック類が用いられていますが、固めた跡で押し潰すと折れ曲がりやひび割れてしまい甲を変形させます。

 作業靴のように足の保護を目的足したタイプでは鋼の先芯を入れますが、日常履きやカジュアルタイプでは爪先の形状を保つ程度の薄い芯が使われます。従って、小さな子供が踏みつけても凹んでしまうことがあります。修理も侭ならないので取り扱いには十分な注意が必要です。

9)尾(美)錠やバックルの破損

写真13 尾錠の破損

 スリングバックのバックルは、装飾効果の面からもそれ程強固にはつくれません。また、歩行時に大きな力が加わるようですと足を痛めてしまうことにもなります。バンドを付けた状態で引っ張り強度測定して30kgf 以上の強度を有する品質は僅かしかありません。靴べらを使用すれば伸びきってしまうレベルのものもあります。

 強度は材質で大きく左右されます。鉄製と真鍮製そして亜鉛合金が使われていますがメッキしてあることから見分け難いでしょう。鉄製は強度が得られますが加工に難点があり、真鍮製では小さな形状にまで加工してもそれなりの強度が得られます。

 ダイキャストと言われている亜鉛合金は模様の細工が簡単にできることから多く使われています。華奢な形にすると踏みつけられたりすると簡単に破壊してしまいます。大きさや形は強度が得られていないレベルまで加工できますので注意が必要です。折れたバックルを踏みつけて怪我をされた事例もあります。

 尾錠類も同じことがいえます。ダイキャスト類は脆い材質であるために尾錠の上に乗ってしまうと、曲がることなく折れてしまいます。

 

中島 健(なかじま けん)

・1939 年 東京都生まれ
・1962 年 スタンダード靴(株)入社
・1972 年 東京都立産業労働会館 技術指導研究員
・2000 年 東京都立皮革技術センター台東支所
      専門技術指導員
          現在に至る。

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