ここまでは、靴と関係がないようですが、不良姿勢から始まる悲しいシナリオはまだ、続くのです。内股にして、膝を伸ばすと足底の外側の方に荷重がかかってきます。実際にご自身でしてみてください。大腿部の内転筋がしっかりしている人はいいんですが、ほとんどの人は、小児期から内股にしていると、膝がO 脚になってきます。O 脚になることで、さらに足底の外側荷重は悪化し、O 脚が進行するという悪循環が生じてきます。O 脚が進行すると膝関節の内側に荷重が集中し、内側の関節軟骨がつぶされ、変形性膝関節症となっていきます。こういう患者さまの靴の底を見ると、外側部分が著明に減っています。(図1)ここで整形外科医とシューフィッターの連携が必要となってきます。
図1 足底の外側荷重ですり減った靴底
靴店にこのお客さまが来店されたらシューフィッターは靴のフィッティングを見るだけでなく、膝の内側の疼痛の有無、立位で踵をそろえた時の膝と膝のすきまの有無を確認し、アウターエッジ付きのインナーソールの必要性について説明し、整形外科受診を勧めていただきたいのです。当然、靴はインナーソールの入れ替えができるものを選んでください。
足底の外側荷重によるO 脚が原因の変形性膝関節症の患者さまは、整形外科には毎日たくさん来院されます。日本の整形外科医は国際的に見て、一定時間内に多くの患者さまを診察することを強いられています。そのため、インナーソールや、靴のフィッティングまで説明が十分にできていないのが現状です。変
形性膝関節症の患者さまには、鎮痛剤、湿布、温熱療法、ヒアルロン酸の関節内注射で対応するのが精一杯となります。ただ、患者さまの膝関節痛が、足底の外側荷重が原因であるなら、診察時間が長くなっても、積極的にインナーソールや靴のフィッティングについて説明し、適切なシューフィッターへの連携を
行っていくことが重要であると思われます。
私のクリニックはその点、恵まれており、私がインナーソールや靴の指導が必要と診断すると、義肢装具士、シューフィッターが靴外来を予約制で行ってくれているので、そこでインナーソールの作成と、靴のフィッティングをしてくれます。そして、医師にどういうインナーソールを作成したかを連絡してくれます。さらに数週間、靴を使用してからさらに、患者さまの足に疼痛がないか、靴の履き方に問題がないかをチェックしてくれています。
O 脚が進行し、変形性膝関節症が悪化し、日常生活が困難となると人工関節の手術を行います。すり減った軟骨の部分を薄く切り取り、金属をかぶせて固定し、その間にクッションを挿入します。骨を切り取る際、O 脚の補正をするため、まっすぐのきれいな足になり、痛みも軽減し、日常生活が再び可能となります。しかし、手術になる前に、姿勢を矯正するフィットネス、インナーソールの使用、靴選びの知識がもっと世の中に広まり、発展することを願っています。